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恋愛短編3【式場・思い出カード】

ハートの花びら 恋愛小説
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式場

雨が降っている。残念ながら天候は荒れている

明日の披露宴を控えて式場のホテルでディナータイムだ。

彼のお気に入りの式場を選んだのは私が彼を好きであること以外に理由はない。

私に夢や希望がないわけではない。私の希望は彼と夢を見て彼と夢を叶えることだから。

彼は2度目の結婚式だ。私の希望を聞かれたけど、彼が望むようにしたいと思った。それが希望。

夕食のバイキングを楽しみながら、明日の結婚式を楽しみにしている。披露宴も。

相変わらず彼は飛びぬけた発想を持っている。

招待状を送ったのに出欠の確認をしないのだ。出欠確認のない招待状を送った。返信用の封筒がない、場所と日程が書かれた招待状。

お互いの両親には招待状を送ってない。自分たちの幸せを望まない人には来てほしくないそうだ。そのことだけは最後まで気にしてくれた。彼は私とともに過ごすことを望みながら、人の気持ちを踏みにじる人とは関わることができないと言っていた。彼には何も言わなかったのに、彼は私の気持ちを感じ取っていた。彼曰く、私のやさしさに救われ、私のやさしさに…。ただただ愛されていると感じた。

親が「子の幸せを願う」というのは口だけだと彼は言っていた。もちろん悪く解釈すればと言うか、悪い意味で捉えればと言うことだが。“子の幸せ”を望むと言いながら、親の言う“子の幸せ”とは親の許容範囲内であって、理解を超えると助けるどころか激しく妨害する。実際、子供がバンドを組んでメジャーになると言ったらどれくらいの親が許してくれるだろう。大学に行って公務員になりたいと言ったら理由も聞かずに誉めてくれるのに、真剣に人生設計を話してアイドルになりたいといったら許してくれない理不尽さがある。彼に看護師希望の知人がいて、なんでなりたいのって聞いたら、産まれてから初めて聞かれた質問だから答えられないと言われたらしい。看護師希望と言ったらそれだけで、後は何も聞かれずみんなして頑張れしか言わなかったって。

彼が言うには、親と言うのは子に対して大失敗をさせないために大成功と本人が望む幸せを排除して平坦な普通を幸せだと押し付けているだけだと。だから、親の望まない幸せを思い描いたら信頼できる人に相談して虎視眈々と夢を叶える日が来るのを狙うのがベストだと。クレヨンしんちゃんで出てきたセリフを思い出した。「押し付けることがしつけじゃねぇんだ!!自分からやらなきゃ意味がねぇんだよ。」子供ってアニメから学ぶことが多いのかもしれない。アニメだって大人が必死で作っているものだ。アニメ自体を否定する人は自分の仕事を否定されたらどう思うんだろう。見過ぎは良くないとは思うけどどこからが見過ぎなのかを明確に説明できる人は少ない。

明日は誰が来て祝ってくれるのかな?びっくり箱みたいな面白さがある。これって私たちだからできることで、他の人たちではできないと思う。この状況を楽しめるのは私と彼だからであることは間違いない

彼は私との子供が2人欲しいと言っていた。子供をふたりで幸せにするって。子供の幸せとは子供が幸せと思うことだと。言っている意味が痛いほど分かる。幸せとは各個人が決めることだ。子供を育てることが親の役目だと理解しつつ、子供と言えど他人であってひとりの人間として尊重することを彼は知っている。私たちの子供ならきっと幸せだと思う。自由と自分勝手を間違えなければ大丈夫。自己責任なんて言葉で無責任に他人を傷つけたりしないだろう。彼は責任という言葉の正しい意味と使い方を知っている。

このあたりの感覚が日本人ではないなと思う。彼は日本人だけどね。きっといろんな苦労をしてきているのだとも思う。自分で考えない人にはついていけない発想だと思う。与えられた当たり前を考えもせず受け入れてしまう人には無理だ。そして、そんな彼の隣で過ごすのは楽しい。彼はリーダータイプだと思っているのに、彼自身は参謀タイプだと言っていた。ナンバー2がオレの定位置だって。リーダーになるには保守的過ぎるって。

台風が近づいている。バイキングを楽しみながら外の荒れた海を眺める。灯台の灯りが遠くを照らす。目の前の浜辺は真っ暗で何も見えない。屋外プールの横にある結婚式場がライトで照らされこんな荒れた天気でも美しさを纏っている。

明日は結婚式と披露宴を済ませてからもう一泊する。次の日は海水浴と島に渡って散策するって言っていた。この人生の一大イベントの中にも遊びを混ぜてくる彼は楽しい。海水浴はリゾート風なのかな?浮き輪でプカプカ浮いているだけでも楽しいのに、彼は浮き輪を引っ張って島まで泳いで渡ると言っていた。どこまでが本気でどこまでが冗談か分からないからドキドキする。彼なら島まで泳ぎそうな雰囲気はある。とは言え、(ときに)常識人な彼だけにフェリーに乗る可能性も高い。

食後のミルクティを一口飲んだところで彼に取り上げられた。彼も一口飲み、「お前のものは俺のもの」と言った。

「ジャイアンにでもなったの?」

「お前のものは俺のものって、お前の痛みや悲しみも全部俺のものって意味。辛さも苦しさも全部俺がもらうから。もちろん楽しさや嬉しさもまとめてね。」

「私も、あなたのものは私のものでいい?」

「辛さや苦しみは分けてあげないよ。笑っていてほしいから、その辺はひとり占め。」

ジャイアンも仲間がピンチの時には体を張って守っていたよと聞かされて、彼もアニメから正義と生き方を学んだんだなと思った。私たちの子供はきっとアニメから人生の歩み方を学ぶんだろうなという予感がした。

彼が急に好きとつぶやいた。私もと言って一呼吸おいてから好きと続けた。ここまで来るのに私たちの苦労は普通ではなかった。彼の苦労は私以上かもしれない。彼の諦めない姿勢を私は侮っていた。かなり苦しい状況だったはずなのに、うまくいくことしか想像できないと後から聞いたときには彼のメンタリティには敵わないなと思った。

もういい?と聞かれうなずくと、ありがとうと言って手を差し伸べてきた。このありがとうの意味が深いものだと気が付くのに時間がかかった。手を取り廊下を歩く。まるで船内のような細い廊下を海を眺めながら歩く。海は暗く波の音だけが聞こえてきそうだ。

部屋に戻る前に明日の打ち合わせと最終確認をした。なにぶんどれだけの人が来るか分からないだけに、係の人も困ったようだ。それだけに打ち合わせの時間は短くて済む。席順を決める必要もない。来てくれた人にはお礼を言うし、ちゃんと挨拶もする。たくさん来てほしいと思わなかったので、来てくれた人にはほんとうに感謝できる。意外とこのやり方はメリットが大きいのかも。変に気を使う必要がない。ご祝儀という形を取らないので規定以上の料金を払わないと披露宴には出席できない。気を使って多めに払ってくれた人たちには後から引き出物を送ることになる。ご祝儀の多い少ないを気にしなくていいのは気が楽で良い。一般的な目安があるから本来ここまで心配しなくても良いとは思うが、ご祝儀の金額を気にしてお祝いに来てもらえないのも寂しい話なので、固執した考えを持たない彼の発想には驚きと安心がある。

部屋に戻り明日の確認をした。真面目に話すものだと思っていたら、起きてすぐにジョギングに行くと言い始めてきょとんとした。これで真面目な方なんだなと解釈し一緒に行くと言ったらジョギングじゃなくて浜辺を散歩することにしてくれた。明日の台風がそれることを願う。午前が挙式、午後から披露宴なので自由な時間は少ない。夜には何もできないし。きっと明日の夜は一日の反省会だな。もし、誰も来なくても反省会では笑い話になっているはずだ。私たちはふたりでいられれば幸せだ。

お腹も落ち着きふたりで貸切風呂に出かけた。予約制で式を決めたときから予約してある。時間は短いがふたりで入りたいという彼の希望だ。彼は一緒に入るのが好きみたい。私は恥ずかしいのだが、私がきれいだからすべてを見たいと恥ずかしげもなく言う彼にうなずいてしまう。これからも一緒に入るのかな。結婚して別々に入る人もいれば一緒に入る人もいるし、出産を機に子供と入るパターンもあるらしい。私たちはどれだ。彼とお風呂に入るのは2回目。前回はバスタオルを巻いて入ったが、彼のお願いに負けてしまった。タオルを横においた私は、彼の可愛いという言葉とともに、後ろから彼に包まれていた。お風呂の温度ではなく彼の温度で温かかった。

ふたりで並んで湯船に浸かり遠くの海を眺めた。暗闇に点々と光る船の明かり。島の灯台。今夜は月も星も見えない。時折激しい雨が吹き込んで風の音が怖かった。彼の腕にしがみつく。彼は自然を怖がらない。この嵐のような風の音ですら好きだと言っている。荒れる波の音、激しく降り注ぐ雨の音、吹き付ける風の音、私の胸の鼓動。

体を温めて部屋に戻った時にはもう寝る時間だった。明日は早いと言いたかったが、私たちは寝るのも起きるのも早いのでわりといつも通りの時間だ。彼とホテルで泊まるのも2度目。前回はツインの部屋なのに同じベッドで一緒に寝たが、今日はダブルのベッドなのでゆったりできる。それでもくっついてしまうから体の小さい私たちではベッドが余ってしまう。

体を寄せあい布団に入るとお互いがお互いに触れた。私が彼を好きになり、彼が私を好きになり、しばらくときを過ごした。このまま眠りにつく。眠りにつく前に風の音を聞いた。

明日、天気になーあれ。

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思い出カード

今日は博物館へデート。

彼は博物館が好きなのだろうか?名古屋市博物館は面白かったと言っている。徳川美術館は巻物が多くて、分からないから苦手だと言っていた。見た目ではなく知識がないと敷居が高いって。

絵画はモネが好きだが良さが分かっているわけではないので、印象派とは何を表し、印象派が目指したものは何であったのかは知らないと言われた。私も絵画を眺めてところで良さは分からない。ただ、眺めて楽しむだけだ。彼もそれで良いと思っている。

道の駅で休んだ時にインフォメーションセンターで彼が何かを手に取った。小さなカードでこの辺りのお勧めが書かれている。

「どこか行きたい場所でも見つかった?」

「なんとなくね。」

深い話でもないので気にならなかった。

自販機でカップのジュースを買って再び車に乗り込んだ。私がコーヒーを嫌っているので、彼は一緒の時にはコーヒーは飲まない。もともと紅茶派だが、コーヒーはカフェインに中毒性があって一度口にすると一定期間は飲んでしまうと言っていた。

彼はたいていお茶か抹茶かミルクティー。彼の好みに合わせて一口いただく。私はこの一口が好き。

お目当ての博物館に着いて早速一回りする。彼も私も深くもなく浅くもなく楽しむ。これが私たちのペースであり気に合う彼氏彼女の関係だ。

展示を眺めて解説を見つつ互いの感想を言うこともあれば眺めてスルーしてしまうこともある。

一通り見終わって出ようとしたとき彼が何かを手に取った。またしても小さなカードをファイルにしまった。

帰りの車で聞いてみた。

「なんのカードを取ったの?」

「男の子だからカード集めが好きなの。」

「遊戯王ですか?」

気になりながらも私なりに冗談を言ってみた。

「見せてあげようか?」

そう言って彼は私にファイルを渡した。

名刺入れのファイルなので仕事用なのかと思ったが、開けてみると名刺はひとつもなかった。

中身はすべて私と出かけた場所に関わるものだった。

「昔はさ写真を撮るとアルバムを作ったりするんだよ。でも、今は携帯で撮るから印刷してアルバムにしないし、携帯の中だけでアルバムができちゃうでしょ。」

「嫌なの?」

「嫌じゃないよ。ただ、手にとって開いて見るアルバムが良かったから自分なりに作ってるの。写真じゃなくて、ふたりで出かけた思い出カード。」

私は彼の思い出カードを順に見ていた。今日のカードでいったん区切れているが、最後のページからファイリングされているのに気付いた。

最後からめくってみると私が行きたいと言っていた場所に関するものが並んでいた。

「調べてくれたの?」

「アルバムって過去のものしか作れないけど、俺の思い出カードは未来の分も作れるから。これから一緒に行きたいところも先に作ってある。」

私はカバンから名刺大の紙を探してみた。近所だけどお店の紹介カードだ。

彼のファイルにそっと差し込んだ。

「思い出、ひとつ増やしといたからよろしくね!未来の方だよ。」

そういって目を閉じ寝たふりをした。

「了解」

私を一瞥した彼はまた前を向き走り出した。

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