玉梓
目を覚ますと彼が横で笑っていた。
そうだ彼とのデートの帰りだ。
久しぶりの彼とのデートは電車に乗って遠出をした。一日中彼と過ごすのは初めてだった。今日はお出掛けなので靴にも気を使った。
彼はよく歩く方なので、今回のお出掛け前には移動距離を教えてもらった。ノープランのデートの時は待ち合わせで彼が最初に靴を確認することを知っている。彼はチラリと視線を下げる。でも、そのことは言わない。それに気づいている私もあえて何も言わない。ただ、気づかないところでも気にしてくれている彼の繊細さが好きだ。
笑っている彼に尋ねる。
「どうかしたの?」
彼の笑う姿を見て少しにやけた。
「面白かったよ。」
電車に乗って最初のうちは手を繋いでおしゃべりをしていた。手を繋ぐのも疲れるもので、途中彼の腕に私の腕を絡めて体を預けたまま寝てしまったらしい。途中、彼が喉が渇いたので腕を抜くと、腕に輪を作ったまま私が寝ている私の姿がおかしかったと。飲み物を一口飲んで針孔に糸を通すように腕を戻しても起きないから何度か繰り返してみたと彼は笑った。
私も自分の姿を思い浮かべて笑った。滑稽な姿に面白さを感じたのかもしれないが、彼は腕に作った輪にトポロジー的な面白さを感じたのかもしれない。
彼は他人と違った考え方をする。自分でも賢いと言っていた。小さい頃は学年の中で一番IQが高かったらしい。彼の賢さは肌で感じる。それは学校の成績のような賢さではなく生きていくうえでの知恵ような賢さだ。
今でこそ多動性や注意欠陥、大人のADHDなどいろんな言葉がある。彼がそれに属するのかは分からないが他の人では理解が追いつかないことだけは分かる。たぶん、私以外の人が彼と接しても彼のことを正しく理解できるとは思えない。だからこそ、私が彼を理解したいと思った。日本人の何も考えず人の言うことを鵜呑みにしなければいけない習慣は彼に息苦しさを与えてしまうだろう。他の人には理解できない、私たちだけの世界の中で幸せに過ごしている。
「向かいの席の女の子でも見てにやついているのかと思ったよ。」
「可愛い女の子を見てもにやつかない。可愛い子をむるのは否定しないけど。」
「んー。」
ちょっと嫉妬した。でも、彼が浮気しないのは知っている。生物的に、女の子がより良い男に移っていく性質と男の子が複数の女の子と付き合う性質を持っていることは知っている。生存するための原理だからそれは仕方ない。彼が浮気しない理由は女の子じゃなくて趣味に忙しいからだ。あと浮気はできないんだって。理由は分からないけど。彼は視線が正直だから他の子を見ているときは分かるから安心している。それに、ごまかしたりしない。
せっかく目を覚ましたので今日のデートを振り返って楽しんだ。
そんなとき、彼が小さなキーホルダーを手渡した。
「今日のお土産」
「いつ買ったの?」
「ないしょ?」
「私のため?」
「違うよ。俺のため。」
お土産が俺のためってのが彼らしい。
私は嫌な記憶を思い出した。泣きながら嫌だと言っているのに、心からやめてほしいと言ったのに、自分勝手な正しさを押し付けられた。これは暴力だ。人を苦しめ、私を苦しめ、それを正しいと主張する。そう、あの人は自分の正しさを語るのに頭がいっぱい、相手の気持ちを察することもせず、未来を予測することもせず、ただ自分の感情を押し付けて自己完結する。間違いに気づいたとしても正す勇気があるかもわからない。あの人が嫌いだ。
記憶を押しのけ彼を見た。
「なんでお土産が俺のためなの?」
「あなたのためなんて迷惑だろ?もしかしたら好みではないものを渡しているかもしれないのに。笑ってるところを見たかった。その気持ちを満たしたかった。」
「私の笑っているところ?」
「そうだよ。笑っているのが好きなんだ。自分が見たいって気持ちを満足させるためにだから、俺のため。」
彼の言っていることは分かるが、”私のため”で良いのに。
彼曰く、「これから、もしかしたら判断を間違えて悲しませるかもしれないし、良かれと思ってした行動でも苦しめたりするかもしれない、それを『あなたのため』って言うと言い返せなくなるし、気を使って受け入れてしまうかもしれない。そうじゃなくて、あなたの喜んでいる姿を見たいって自己満足のためだから、無理しなくて良いよ。」だそうだ。
彼も自分勝手で自己満足を押し付けてくる。でも、それは非常に心地よい押し付けだった。一方的ではない、私の気持ちに寄り添った自分勝手だった。そして彼は私を幸せにしてくれる。
電車の揺れに合わせて、彼に体を預ける。彼の心臓の音が聞こえる。その音が声になった聞こえてきた。それは彼からの手紙のように言葉になって聞こえてきた。彼の声が鼓膜を揺らす。私も言葉を返す。それは深呼吸の吐く息で、音ではなかった。私の声は彼の鼓膜を揺らせたか?
彼の体が私の体に触れた。いやらしくて心地よい。
キーホルダーについたマスコットを掌で包んだ。
彼の言葉を聞いているうちに眠たくなった。眠るに落ちる心地よさと眠ってしまう不安の狭間で泣く赤子のように、睡魔と起きていたい自分との間で揺れていた。
「幸せ」
今度は言葉に出した。小さな音が空気を揺らす。
「好き」
彼からそう聞こえた。
ありきたりな言葉なのに重みが乗っていた。耳に届く前に重みで落ちそうな言葉を拾った。
私の加重重心が彼の加重重心と重なるのを感じ取っていた。
Alchemy(アルケミー)
急な連絡だった。
ときどきメッセージのやり取りをするそんな関係だった。
「YouTubeやりたいんだけど、一緒にやろう!」
なんで私か疑問だった。答えを聞いたら可愛いくて賢いからだって。
人に見られるのは不安でうつさないなら良いよと言いたかったが、それでは一緒のやる意味がないのではないかと思った。無下に断るのもできなくて、とりあえず話だけ聞くことにした。
少し日を置いて彼の家に行った。やるかどうかは別にして打ち合わせも撮っていいかと言われて了承した。
聞いてみたら彼は意外なほど真面目に考えていた。
最初に言われたのは好きな人とカップル動画を撮りたかったって。だけど、その人とは会えなくて連絡も取れなくて、でもYouTubeはやってみたくて人を選ぶのに苦労をしたって。
私を選んだ理由は、1可愛くて、2賢くて、3天然で、4一緒にいて力が入らないの4つの条件を満たすからだって。そして私以外には声をかけていないということだった。
条件を満たさない人と組んでやっても途中でやめてしまうだけだから、やるからには持続するやり方が良かったみたい。
内容も普通のカップルがやるようなことで、出かけたときのデートを撮ったり、家で遊んでいる様子を撮るものだった。
あまりに真面目に話すから何でそんなにやりたいかだけ確認したかった。答えは明快で、うまくいって利益が出れば良いから、無理なくやれて利益がでそうなものをやりたいって。
そこまで聞いて一緒のやることを承諾した。撮影の間はビジネスカップル?仮想カップル?そんなイメージでやることになった。
最初の企画は何が良いか話し合った。どこかにデートしても良いし、単純に外食するだけでも良いし、見ていてほのぼのすれば良いって。結局普通にデートすることになった。
そんな簡単に行くものなのか謎だったが、興味は出た。自分たちが外からどう見えるのかも気になった。そんな好奇心でデートの日を迎えた。
そう、これから何度もデートをする。どんな気持ちの変化を抱くのか試してみたくなった。
仮想と現実が混ざっていくのか、割り切っていくのか、自分の気持ちに興味がわいた。
もし、恋心を抱くようになったら、どうしよう?そんな不安もありながら、不安に思う自分が恋する可能性を考えていることに気づいた。
いろんな企画を撮って、うまくいけば利益が出て、そしたらやめられないなぁ。
そんな二兎追うものの気分で待ち合わせ場所にいたら、彼が来た。
「お待たせ」
そんな自然な言葉を自然に言う彼を見て、改めてデートなんだなと確信した。
夢診断202005
朝の目覚めの悪さを恨んだ。
うちにはカーテンがないせいか、朝の日差しで起きてしまう。
直前まで夢を見ていた。夢を見ることは普通だし、気にも留めない。ただ、好きな人が夢に出てきたときは記憶に残る。
今日もそうだった。ただ、昔の職場の同僚が出て来て、よく分からない会話をしていただけだった。
なのに、急に彼女が出てきた。
彼女と車に乗り込んだ時に、彼女の子供が3人いた。3人とも女の子だった。
それが自分との子供なのか不明確だった。
そうして走り出す前に目が覚めた。
そうか、この子が好きなんだ。自分で改めて確認する。確かにね。
子供が欲しいのかな?3人かぁ。
ずっと好きな人とはふたりの子供が欲しいと思っていたから、3人でしかも3人とも女の子であることが意外だった。
ふたりで男女別が良かったのになぁ。
何かの暗示かな?
久しぶりに会えて良かった。
感想お待ちしています。
夢診断は本当に夢をみたものを元に脚色して書いています。だから意味不明なのはスルーしてください。真面目に何を暗示しているのか自分の深層心理を知りたいので、分かる人は教えてくれると嬉しいな。
YouTubeはマジでやりたいので、知り合いでカップル動画やってみようって人は連絡ください。
感想だけでなく、書いてほしいシチュエーションなどあればご要望に応えます。
メッセージお待ちしてます。
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